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おポエム申し上げます

宅配ピザを食べるときに思い出す気まずさのこと

計画外の外食をする・お惣菜を買ってくるという習慣がほとんどない家庭で育ったので、宅配ピザデビューもそれはそれは遅かった。
ピザというのは母親がパンを焼くときによりわけた生地で作る四角いやつで、CMや投函チラシで見る、完璧に丸くて、マヨネーズとかてりやきチキンとかが乗っているピザは、もはや別世界の食べ物みたいに思っていた。
めちゃくちゃおいしいんだろうな……ということは予感していて、でも小中学生のおこづかいで宅配ピザを頼むというのは不可能に近い。
当時のおこづかいはほとんど漫画に消えていた。ピザ1枚最低1500円。コミックスだったらだいたい4冊、古本屋で買ったら倍いける。購買でおやつも買いたいし、放課後マックでしゃべるためにジュース代も置いておかないといけない。おこづかいは月3000円(中学3年生当時)。
無理だ。おこづかいからピザは注文できない。悲しい方程式の完成。憧れの人ならぬ憧れのピザ。

ところで弊両親には10年近い戦争期間がある(今は講和条約が締結されました)。普段は冷戦で口もきかない状態、なにかのきっかけで大きめの戦闘勃発になるパターン。
何度目かの開戦で、夕飯を作る気をなくした母親がピザを注文した回がある。
人生初宅配ピザに中学生だった私と弟はかなり浮き足立った。大人になるまで食べられないと思っていた宅配ピザが今。
まあでも当然ながら、落ち着いては食べられず、味の記憶はあまり定かではない。
母親がすごく機嫌が悪かったことははっきり覚えているし、父親が鮮やかな青のフリースを着ていたことも写真を見るみたいに思い出せるのに。
その後実家ではついぞチャンスがなく、大学生になってサークルの同期の家でピザパーティをしたのが2回目の宅配ピザ体験だった。

大人になったので、ひとりでピザをオーダーすることもできる。
もっちりめのパン生地、ハーフアンドハーフのMサイズで、半面は大体ハワイアン、あと半面はそのときの気分だけど、野菜系かシーフード系を選ぶ。ハワイアン、苦手な人も多いですね。私はすごく好き。
固形チーズはあまり好きじゃないのに、ピザを覆っているメルトチーズは無性に食べたくなる。残業をがんばってへろへろになった日、電車に乗る前にピザとコーラを頼むことで家に帰る活力を出したりする。
部屋着で頬張るピザは気楽でおいしい。でも、重苦しい空気の中急いでピザを食べた日のことをふと思い出すことがあって、そういうとき少し気まずさが残る。
あの居心地悪い記憶を上書きするような気持ちで注文ボタンを押しているところがある。