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おポエム申し上げます

Thrill me(2017韓国版)観劇メモ

できるなら記憶を消してもう一度観たいミュージカルナンバーワン。
エア手配の翌日に渡航注意が出て青ざめたりしましたが行ってきました。
チケットはインターパークで。YES24も試したけどうまく登録できず。
3月末、そろそろ観にいっとかないとな~来週とかどうかな~って余裕こいて残席チェックしたら、週末はかなり先までチケットなくてヒヤッとした。
1時間くらいリロードしまくったら今回取った席が出てきたので慌てて予約。

会場はベガムアートホール、COEXと同じ三成駅から歩いて5分くらい。ABCホールのようなこぢんまりしたサイズ感。
チケットボックスで予約メールを見せたら紙のチケットを渡してくれました。
セットも日本で見たのとほぼ同じ。銀劇では木の柱が立っていた気がする。
裁判所のときのライティングは、日本では「私」に四角く切り取られたスポットが当たっていたのですが、韓国では普通の円スポットでした。

1924年のシカゴで起きた実際の犯罪「レオポルドとローブ事件」を下敷きに書かれた、もとはオフブロードウェイの演目。
誘拐殺人の罪で30年近く模範囚として服役した「私」は、仮釈放の審議会にて、共犯の「彼」との間に何があり、どういう経緯で犯行に及んだかを陳述します。
まだ20代だった「私」と「彼」はそれぞれ裕福な家に生まれ、幼馴染として育ちました。周りの人間を見下し、ニーチェの超人主義に傾倒している「彼」は、自分の優越性を社会へ証明しようと犯罪に手を染めるように。「彼」に心酔している「私」は、「彼」の計画に関わり、最初は廃屋への放火や窃盗などの軽犯罪、そして児童の誘拐殺人をきっかけに逮捕へ。
出演者は「私」と「彼」のみ、男性俳優の濃密なふたり芝居。セットもシンプルで、大掛かりな転換はありません。劇伴は生ピアノ、以上。客電が落ちるとまずピアニストの方が、舞台上手の高い場所へ設置されたアップライトピアノへ。生演奏という公演ごとの一回性と、全体的にテンポ速めの曲目に、いやでも高まる物語の緊張感。
不要なものをとことん削ぎ落とし、韓国版と、それを基にした日本版では役名すらない、生々しい感情のぶつかりをじりじり見守る90分です。実際の殺人シーンは描写されることがないので、血や暴力表現がダメでも見られると思います。

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今回見たのは「私」がカン・ピルソクさん、「彼」がイ・ユルさんの組み合わせ。
カン・ピルソクさん、お顔が小さ~い……鼻筋がすうっと通っていて、なのに鼻先が丸いのがあまりにチャーミング。
童顔で穏やかな雰囲気で、本編でめがねをかけて出ていらしたときはどこか神経質な印象を受けました。紺スーツで銀行員ぽかったせい?
イ・ユルさんは男性的な外見で、ピルソクさんとほぼ頭ひとつ分の差があった。前髪を上げていらしてブラウンのスーツで、スタイルばつぐんでした。腰の位置が高い!
今回の「私」は品よく知的、「彼」は厭世的な意識高い系大学生という感じ。
日本で見たのは尾上松也さんと柿澤勇人さんのペアで、そのときは「私」のほうが背が高くて、穏やかで頭の回転が少しゆっくりめ(その役作りが後半でめちゃくちゃ効いてくる!)/「彼」が細身で神経質で若さと全能感に満ち溢れていて、という感じだったので、ペアによってまったく印象が変わってくる話だなと思います。

もう結末を知ってしまっているせいか、ピルソクさんの「私」は最初からどうしようもなく悲しい空気を纏っているように思えました。ふたりでいる時間を無邪気に楽しむだけではいられない、「彼」を自分だけのものにするにはどうしたらいいのか、いつも少しだけ考えているような「私」。
廃屋にガソリンを撒くとき、子どもを誘拐してきて殺そうという「彼」に賛成するとき、「私」が抱えた悲愴さが炎のように垣間見えます。「彼」に絶対的に賛成の立場じゃない、自分たちのやっていることが関係者に与えるダメージをきちんと認識できる、それでも「彼」へ寄り添ってしまう苦悩。やっていることは犯罪だし、動機も利己的なんですけど、あえて辛い道を選ぶ殉教者のような清潔さ、気高さがある。
ただ、「私」は確かにそれを喜んでいる。罰されるかもしれない、罰されたいというマゾヒスティックな欲望が、虫も殺さぬような顔をした「私」が熱望しているスリルだったのかなと思います。
「彼」は、放火や強盗で一瞬楽しそうな顔を見せても、すぐにつまらなそうなつんとした表情に戻ってしまう。なにをしても満足できない心を煽り立てるように犯罪へ走り、キスやそれ以上のことまで共犯契約の対価として使ってしまう捨て鉢さ。お前がいないとだめなんだと歌い、犯罪の観客として「私」の目を必要としながら、本当は自分自身にも興味がないように見える「彼」。
反対に「私」からは、自分の中へ閉じていく強い自己愛を感じました。「彼」に対して一般的にいう性愛があったのかすら危うい。尾上柿澤ペアの「私」は、「彼」がいなくなったら死んでしまうような個人への執着がありましたが、ピルソクユルペアの「私」が求めていた「彼」は、あくまで理想としての存在で、肉体として必要としているかというとまた別のような。
「彼」を自分のものにしても「私」が満足することはなく、どちらかというとまた奪われることに喜びを感じていそうな「私」という私見です。

セリフや歌詞を理解しながら観たらまた印象も変わりそう。
韓国語はさっぱりなんですが、日本版観たことあるしOSTスピードラーニング効果で大筋はわかるという感じでした。
共通した発音の単語もあるから、A Written Contractで「ケヤクソ」って出てくる度にハッとした。契約書!
男ふたりの情念が煮詰まっていく過程と、その末に待っている爆発には、韓国語の激しい響きがまあよく似合いますね。

最初のキスシーン、「彼」のほうが上背あるのでどうするのかなと思って見ていたら、長い脚をかがめるでもなく顔だけ傾けて掬い上げるようにいったので、頭がおかしくなった。
そのときは応えるように顔の角度をつけていた「私」が、「私」をなだめすかそうとして「彼」がするキスを拒むときは、そっと顔を背けることで成立させなくするの、シーンの対比として鳥肌ものでした。

とにかくピルソクさんがラブリーだった。お顔もコメディシーンの演技も。
「彼」を待つシーンでニコニコそわそわチョロチョロしているところとか、A Written Contractの前、寝るからって言う「彼」に膝枕してあげる! って膝をポンポン叩くところとか、スイートすぎてオペラ覗きながら半笑いになった。
一変して、Everybody Wants RichardとかMy Glasses/Just Lay Lowの激した表現もよかったなあ……ソフトな見た目なのに声量あるし音も外れない。迫力ありました。

カーテンコールでは半分くらいがスタンディングオベーション。最終日というわけでもないのにあの熱狂は演目だからなのか、もともとの観劇スタイルがああいう感じなのか。
客席にお辞儀をされる演者さんへ、拍手に加えて声援で応えるのも日本とは違って新鮮でした。

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渡航目的の大きなひとつ、マグカップ。iPhoneケースもかわいかったんだけど私のiPhoneは残念ながらSE。
グッズもカードで買えるのすごい。

pokos.hatenablog.com

チケットの取り方、上記を参考にさせていただきました。ありがとうございます!